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士業の先生方と、AIの「リスクとリターン」に本気で向き合った一日(セミナー報告)

2026年6月16日、一般社団法人 おかやま中小企業支援実務家協議会(OCS)様にお招きいただき、「AI時代の士業経営 ― 効率化の先にある、高付加価値型専門家への進化」というテーマで、セミナー講師として登壇させていただきました。

会場には、弁護士、税理士、司法書士、社会保険労務士の先生方をはじめ、地域の中小企業を支える専門家の皆様が集まってくださいました。お忙しい中、貴重なお時間をいただいたこと、まずは心より御礼申し上げます。

正直に書きます。今回ばかりは、いつものセミナーとは少しだけ緊張の質が違いました。

なぜなら、目の前にいらっしゃるのは、私が日々向き合っている経営者の皆様とはまた違う、「その道のプロフェッショナル」である士業の先生方だったからです。専門知識でも、論理の鋭さでも、お客様への責任感でも、誰よりも厳しい目を持っていらっしゃる方々。その先生方に、AIという新しい武器の話を、どこまで本質的にお届けできるのか。会場に入る前、私の中には確かに、いい意味での緊張がありました。



「士業事務所もまた、一つの中小企業である」

私が今回、一番お伝えしたかったメッセージは、実はとてもシンプルなものです。

「士業事務所もまた、一つの中小企業である」

この一点に尽きます。

専門家の先生方は、お客様の経営課題には日々全力で向き合われています。けれども、ご自身の事務所「経営」となると、案外、後回しになっていることが多いのではないでしょうか。私はそこにこそ、AI活用の大きな伸びしろがあると考えています。

お伝えした流れは、こうです。

まず、AIにお願いできる仕事は、どんどんAIにお願いする。議事録の作成、資料の要約、リサーチ、メール文案、定型的な事務作業——。こうした「作業」をAIに任せることで、時間を創り出す

そして、ここからが本題です。その創り出した時間を、何に使うのか。

効率化は、それ自体がゴールではありません。効率化で生まれた時間を、お客様の課題を深く理解する対話に、専門判断の質を高める検討に、一歩踏み込んだ提案に——つまり、本当にお客様の価値を生む「プロの世界」での業務を高度化することに使う。そうやって、お客様への提供価値そのものを引き上げていきましょう、と。

「記録する → 効率化する → 高度化する → 価値を創造する → 連携する」。

このステップで事務所が進化していく姿を、実際の中小企業の支援事例(構想からわずか3か月で来館者数が前年比20%増となった事例など)も交えながら、できる限り具体的にお話しさせていただきました。

ありがたいことに、先生方は本当に意欲的に、前のめりで聞いてくださいました。その熱量に、私自身が大いに励まされた時間でした。



「専門家ならでは」の論点 ― セキュリティをどう考えるか

そして、ここからが、今回のセミナーで私が最も「さすがだ」と唸らされた部分です。

質疑応答、そして夜の懇親会まで、議論が一番白熱したのは——データのセキュリティでした。

これは、まさに専門企業の先生方ならではの問いだと思いました。弁護士も、税理士も、司法書士も、社労士も、皆さん例外なく、お客様の極めてセンシティブな情報をお預かりするプロフェッショナルです。だからこそ、「この情報を、本当にAIに入れていいのか」という問いに、誰よりも真剣に向き合われている。その姿勢に、私は深く敬意を抱きました。

この問いに対する、現時点での私の考えを、ここにも正直に書いておきます。

結論から言えば、「絶対に安全」という選択肢は、どこにも存在しません。

考えてみてください。そもそも、人間が情報を扱う時点で、リスクはゼロにはなりません。普段、何気なく使っているクラウド——Googleドライブも、OneDriveも、データを外部に預け、共有し、オープンにしているという意味では、ある種のリスクを抱えています。

「では、ローカルのサーバーに置けば安心なのか」。いいえ、そうとも限りません。今度はBCP(事業継続)の観点、つまり災害や事故でデータそのものを失うという、別のリスクが顔を出します。

つまり、どの道を選んでも、リスクは形を変えて存在し続ける。 これが冷徹な現実です。

そして、新しい「AI活用」という文脈が加わった今、私たちは改めて、このリスクとリターンを、どう天秤にかけて判断するのかという問いの前に立たされています。

正直に申し上げます。この問いに、今この瞬間、万人にとっての「唯一の正解」はありません。

だからこそ——ここが今回、私が一番強くお伝えしたかったことです。



答えがないからこそ、トップが「決断」する。そのために、トップがAIを使う。

リスク対リターンに明確な正解がない以上、最後は経営のトップ自身が、一つひとつ決断していくしかない。

事務所の代表が、「うちはこの情報まではAIに入れる」「ここから先は入れない」「この設定で運用する」と、自らの責任で線を引いていく。これは誰にも代わってもらえない、トップの仕事です。

では、その重い決断を、何を拠り所に下すのか。

ここで決定的に重要になるのが、トップ自身のAIリテラシーです。

AIが何をできて、何が苦手で、どこにリスクが潜み、どこにリターンがあるのか。それを「人から聞いた話」としてではなく、自らの手と頭で、実際に使い込んだ肌感覚として理解していること。最低限のリテラシーを持った状態で、はじめて、地に足のついた経営判断ができる。私は今回の議論を通じて、その必要性を改めて、痛切に感じました。

なお、技術的な実務論としては、最低限「AIの学習に自社データを使わせない(非連携)設定」にすることを、まず徹底するようお伝えしました。そのうえで、「ここから先はリスクとリターンで個別に判断する」。この順番が大切です。

そして、これは士業の先生方に限った話ではありません。あらゆる業種の、すべての経営者に共通する真実だと、私は確信しています。

今のAIは、誰かに任せて済ませるものではなく、経営者自身が、自らの手で使うものである。

トップが自ら使い、その本質を掴んでいるからこそ、はじめて会社全体・組織全体へとその効果を広げ、高めていくことができる。今回の先生方との真剣な議論は、私自身にとっても、この信念を改めて確かめる、かけがえのない時間となりました。



OCS様という、稀有な「専門家連携」のかたち

最後に、今回お招きいただいたOCS様について、少しご紹介させてください。

一般社団法人 おかやま中小企業支援実務家協議会(OCS)様は、「地域と繋がる 中小企業 支援の輪」を掲げ、岡山県および隣接県の中小企業を支援することを使命とされている団体です。私が代表を務める経営コンサルタント事業協同組合(OMBC)とも非常に関係性の深い団体です。


一般社団法人 おかやま中小企業支援実務家協議会 - OCS

OMBC 経営コンサルタント事業協同組合


何より特筆すべきは、その圧倒的な専門家連携の厚みです。弁護士、司法書士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、中小企業診断士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、弁理士、行政書士、経営コンサルタント——いわゆる10士業を横断し、約50名もの専門家が一つの輪となって中小企業を支えていらっしゃいます。


中小企業支援コンペの開催(すでに12回を数えます)や、支援人材の育成、研究・開発事業など、その活動は実に多岐にわたります。「一人の専門家がすべてを抱え込むのではなく、それぞれの専門性を持ち寄ってチームで支える」——まさに、私が今回のセミナーの後半でお話しした「AI時代の士業連携」を、何年も前から地でいかれている、稀有な団体です。そんな志の高い先生方の前でお話しできたことは、講師として、この上ない誉れでした。



OCSの先生方、そしてご準備くださった事務局の皆様、本当にありがとうございました。

時間を創り出し、プロフェッショナルとしての専門性を磨き上げ、そして士業連携で岡山の中小企業の未来を支えていく。先生方の事務所が、AIという新しい武器を手に、さらに力強く進化されていくことを、心から楽しみにしています。

そしていつか、このAI×士業経営の取り組みを、岡山から全国へと広げていきたい。そんな願いを胸に、私はまた明日から、コンサルタントとしての日常に戻ります。

ありがとうございました。